研究と留学/坂谷 慧

私は学位取得後、留学の機会を得て、計5年間アメリカに研究留学しました。初期研修医の頃は臨床診療にしか興味がありませんでしたが、後期研修医として大学病院で働く中で臨床研究に携わり、さらに実験をする先輩方の姿を直に見ることで研究に対する興味を抱きました。そして、医師4年目で大学院に進学し、研究の世界に足を踏み入れました。私の学位のテーマはプロバイオティクスがつくる細菌由来の物質の抗腫瘍作用を明らかにすることでした。

 

医師8年目で学位を取得した後、テキサス州ダラスのBaylor University Medical Centerに留学しました。Principal InvestigatorであるAjay Goel先生のラボのメンバーは、日本人、インド人、中国人、スペイン人など多国籍で、ここでは、消化器癌のバイオマーカーの同定や、抗腫瘍作用を持つ物質やサプリメントに関する研究に取り組みました。その後、イリノイ州シカゴに移り、The University of ChicagoのEugene B. Chang先生の指導の下で腸内細菌と宿主間の相互作用について学びました。腸内細菌がヒトの健康や疾患に影響を及ぼすことは知られていますが、その詳細なメカニズムはまだまだ解明されていない状況です。オルガノイドや無菌マウスを用いた実験や腸内細菌叢解析を通じて、その複雑なメカニズムの解明に取り組みました。アメリカの大学の環境はとても刺激的で、充実した施設と実験機器が利用でき、また定期的なカンファレンスで同じラボの仲間や他のコラボレーターとディスカッションを行うことができました。

 

留学生活は、英語での日常会話もままならないところから始まり、言語の壁、新しい環境への適応、研究のプレッシャー、COVID-19のパンデミックに伴うロックダウンなど、大変なことも多かったですが、アメリカでの5年間は、研究も日常生活もひとつひとつが非常に貴重な経験で、新たな知識や今までの自分とは異なる視点を提供してくれました。また、多様なバックグラウンドを持つ人々と交流することで、様々な文化を学び、国際的な視点を身につける機会となりました。帰国後は診療に携わりつつ、研究も続けています。研究は日々の診療から湧いてくる自身の疑問に対してアプローチすることができるので、とても興味深い世界です。研究や留学を検討している皆さんには、ぜひ新たな経験や挑戦を楽しんでいただきたいと思います。

 

Rockefeller Chapelから見たThe University of Chicagoのキャンパス